第162条所有権の取得時効過去問 6
1二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
この条文の過去問 6問
甲不動産を所有の意思なく占有していたAが死亡し、Bがその占有を相続により承継した場合には、Bは、新たに甲不動産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられ、かつ、Bの占有開始後、所有権の時効取得に必要とされる期間その占有を継続したとしても、自己の占有のみを主張して甲不動産の所有権を時効取得することはできない。
他主占有者の相続人も、新たに自分の物として支配を始めれば、自己の占有のみで時効取得を主張できる。
解説
誤り。他主占有者の相続人も、新たに事実上支配して占有を始め、その占有が外形的客観的にみて所有の意思に基づくものであれば、自己の占有のみを主張して所有権を時効取得することができる。
【ひっかけ】他主占有は、所有の意思の表示か新たな権原による占有の開始が無ければ、性質が変わらない(民法185条)。相続人は被相続人の他主占有を引き継ぐだけなので、自主占有には変わらないように見える。しかし承継人は、前の占有と切り離して自己の占有だけを主張することもできる。
【条文】民法187条「占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。」
【根拠】最高裁判所第三小法廷判決 平成8年11月12日(平成7(オ)228、民集50巻10号2591頁)裁判要旨一「他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。」
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる(民法187条1項)。最高裁平成8年11月12日判決は、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきであると判示し、その事件で相続人について取得時効の成立を認めた。本肢のBは、新たに甲不動産を事実上支配して占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる。したがって、Bは、自己の占有のみを主張し、時効取得に必要な期間の占有によって甲不動産の所有権を時効取得することができる。
【出典】最高裁判所第三小法廷判決 平成8年11月12日(平成7(オ)228、民集50巻10号2591頁)裁判要旨一 https://www.courts.go.jp/hanrei/52574/detail2/index.html
Aから甲不動産を買い受けてその占有を取得したBが、売買契約当時、甲不動産の所有者はAではなくCであり、売買によって直ちにその所有権を取得するものでないことを知っていた場合には、Bは、その後、所有権の時効取得に必要とされる期間、甲不動産を継続して占有したとしても、甲不動産の所有権を時効取得することはできない。
他人の物と知って買った買主の占有も所有の意思があるので、20年で時効取得できる。
解説
誤り。他人の物の売買であると知って買い受けた買主の占有も、特段の事情のない限り所有の意思をもってするものであり、20年間の占有によって所有権を時効取得することができる。
【ひっかけ】売主が所有者でないと知っていたことを「所有の意思がない」ことにすり替える作り方。知っていたことは占有開始の時の善意を欠くことになるが、善意を要件とするのは10年の取得時効(162条2項)である。
【条文】民法162条「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
【条文】民法162条「その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
【根拠】最高裁判所第三小法廷判決 昭和56年1月27日(昭和53(オ)1350、集民132号33頁)裁判要旨「土地の買主が売買契約に基づいて目的土地の占有を取得した場合には、右売買が他人の物の売買であるため土地の所有権を直ちに取得するものでないことを買主が知つているときであつても、買主において所有者から使用権限の設定を受けるなど特段の事情のない限り、買主の占有は所有の意思をもつてするものとすべきである。」
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する(民法162条1項)。最高裁昭和56年1月27日判決は、土地の買主が売買契約に基づいて占有を取得した場合には、他人の物の売買であるため直ちに所有権を取得するものでないことを買主が知っているときであっても、所有者から使用権限の設定を受けるなど特段の事情のない限り、買主の占有は所有の意思をもってするものと判示した。本肢のBは、Cが所有者であると知っていたので善意ではないが、20年の取得時効は善意を求めていない。したがって、Bは、所有権の時効取得に必要とされる期間占有を継続すれば、甲不動産の所有権を時効取得することができる。
【ポイント】悪意の占有者でも、所有の意思があれば20年で時効取得できる。
【出典】最高裁判所第三小法廷判決 昭和56年1月27日(昭和53(オ)1350、集民132号33頁)裁判要旨 https://www.courts.go.jp/hanrei/74537/detail2/index.html
Aが、甲不動産を10年間占有したことを理由として甲不動産の所有権の時効取得を主張する場合、その占有の開始の時に、Aが甲不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことは推定されない。
占有者に推定されるのは所有の意思・善意・平穏・公然で、無過失は10年の時効を主張する者が証明する。
解説
正しい。占有者について推定されるのは所有の意思・善意・平穏・公然であり、無過失は推定されないので、10年の取得時効を主張する者が無過失を証明しなければならない。
【ひっかけ】186条1項で善意が推定されるので、無過失も一緒に推定されると思わせる作り方。
【条文】民法186条「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。」
【条文】民法162条「その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
【根拠】最高裁判所第一小法廷判決 昭和46年11月11日(昭和46(オ)660、集民104号227頁)裁判要旨「民法一六二条二項の一〇年の取得時効を主張するものは、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であつたことの立証責任を負う」
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する(民法186条1項)。ここに無過失は挙げられていない。10年の取得時効は、占有の開始の時に善意であり、かつ、過失がなかったことを要件とする(162条2項)。最高裁昭和46年11月11日判決も、162条2項の10年の取得時効を主張する者は、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことの立証責任を負うと判示している。
【ポイント】186条1項で推定されるのは「所有の意思・善意・平穏・公然」の4つ。無過失は入らない。
【出典】最高裁判所第一小法廷判決 昭和46年11月11日(昭和46(オ)660、集民104号227頁)裁判要旨 https://www.courts.go.jp/hanrei/62056/detail2/index.html
取得時効を援用する者が、時効期間の起算点を任意に選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることは許されない。
取得時効の起算点は占有開始の時で、援用する者が選んで早めたり遅らせたりできない。
解説
正しい。取得時効の期間は、時効の基礎となる事実が始まった時から計算し、援用する者が起算点を選んで時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。
【条文】民法162条「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
【根拠】最高裁判所第一小法廷判決 昭和35年7月27日(昭和32(オ)344、民集14巻10号1871頁)裁判要旨「時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。」
最高裁昭和35年7月27日判決は、時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできないと判示した。所有権の取得時効では、占有を開始した時が起算点になる(民法162条)。本肢は、この判決と同じ内容を述べている。
【出典】最高裁判所第一小法廷判決 昭和35年7月27日(昭和32(オ)344、民集14巻10号1871頁)裁判要旨 https://www.courts.go.jp/hanrei/53585/detail2/index.html
Bは、20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と甲土地を占有していた。この場合において、Bが取得時効を援用した後は、Aは、Bに対して、甲土地につき、所有権に基づく物権的請求権を行使することができない。
相手方が取得時効を援用すると、もとの所有者は所有権を失うので、所有権に基づく請求はできない。
解説
正しい。Bが取得時効を援用すると、Bが甲土地の所有権を取得し、Aは甲土地の所有権を失うので、AはBに対して所有権に基づく物権的請求権を行使することができない。
【ひっかけ】所有権は時効によって消滅しないことを思い出させ、Aの所有権もそのまま残るように見せる作り方。Aの所有権が消滅時効で消えるのではなく、Bが時効によって所有権を取得した結果としてAが所有権を失う。
【条文】民法162条「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
【条文】民法145条「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する(民法162条1項)。時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない(145条)。本肢のBは、20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に甲土地を占有し、取得時効を援用したので、甲土地の所有権を取得する。Bが所有者となったことで、Aは甲土地の所有権を失い、Bに対して所有権に基づく物権的請求権を行使する根拠が無くなる。
はい。Cは、Bに対し、当該土地の所有権を主張することができます。
時効の完成前に原所有者から譲り受けて登記したBには、Cは登記がなくても時効取得を主張できる。
解説
正しい。取得時効の進行中に原所有者から土地を譲り受けて移転の登記をしたBに対しては、時効取得者Cは、登記がなくても所有権を主張することができる。
【ひっかけ】Bが先に登記を備えているので、登記の無いCが負けるように見せる作り方。Bが登場したのは時効完成の前である。
【条文】民法162条「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
【根拠】最高裁判所第三小法廷判決 昭和41年11月22日(昭和38(オ)516、民集20巻9号1901頁)裁判要旨「不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。」
【根拠】最高裁判所第一小法廷判決 昭和33年8月28日(昭和30(オ)15、民集12巻12号1936頁)裁判要旨「時効により不動産の所有権を取得しても、その登記がないときは、時効完成後旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対し、その善意であると否とを問わず、所有権の取得を対抗できない。」
教授の質問は、Cが占有しているA所有の土地をAがBに売却して移転の登記をした後に、Cの取得時効が完成し、Cが援用した場合である。判例は、不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができるとしている(最高裁昭和41年11月22日第三小法廷判決)。本問のBは時効完成前に譲り受けて登記をした者なので、Cは登記なくしてBに所有権を主張することができる。これに対し、時効完成後に旧所有者から所有権を取得し登記を経た第三者に対しては、時効取得者は登記がなければ所有権の取得を対抗できない(最高裁昭和33年8月28日第一小法廷判決)。
【出典】最高裁判所第三小法廷判決 昭和41年11月22日(昭和38(オ)516、民集20巻9号1901頁)裁判要旨 https://www.courts.go.jp/hanrei/53871/detail2/index.html / 最高裁判所第一小法廷判決 昭和33年8月28日(昭和30(オ)15、民集12巻12号1936頁)裁判要旨 https://www.courts.go.jp/hanrei/52825/detail2/index.html
